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東京高等裁判所 昭和52年(ラ)585号 決定 1977年10月31日

抗告人 有限会社 佐藤鉄工所

右代表者代表取締役 佐藤栄蔵

右訴訟代理人弁護士 星山輝男

主文

本件競落許可決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というにあり、その理由は別紙一記載のとおりである。

二  本件記録を検討すると、本件競売物件は別紙二目録記載の(一)、(二)の建物(以下本件建物という)と(三)の宅地であること、本件建物は同目録記載の(四)ないし(七)の土地上に存し、本件建物及び右(四)ないし(七)の土地はいずれも抗告人の所有に属していたが、昭和四九年一〇月二五日抗告人は債権者朝倉宏に対し本件建物を、連帯債務者佐藤一夫はその所有に係る右(三)の宅地を共同担保として提供し抵当権を設定し、昭和五二年三月三日その旨の登記を経由したこと、債権者朝倉宏は右抵当権(請求債権元金四〇〇万円)に基づいて右物件につき本件競売を申立てたところ、右物件は一括競売に付され、昭和五二年七月一三日長野県信用保証協会に対し競落許可決定がなされたことが認められる。

右認定の事実によれば、本件建物が競落人である長野県信用保証協会の所有に帰する場合、民法三八八条の規定により、その敷地である右(四)ないし(七)の土地につき法定地上権が発生するものと解される。そして、このように法定地上権を生ずべき建物の競売においては、その建物は法定地上権を伴うものとして評価をなさしめ、これを斟酌して最低競売価額を定めるべきものである。

そこで、本件記録をみるに、鑑定人木村毅の評価書によれば、本件建物のうち(一)の建物は金七四八万八、〇〇〇円(一平方メートル当り金一万三、〇〇〇円)、(二)の建物は金二九万五、〇三五円(一平方メートル当り金八、五〇〇円)と評価されており、本件競売期日の公告にも、右金額が最低競売価額として記載されていることが認められるが、右鑑定人の評価において法定地上権を考慮したものと認めるに足りる形跡は全く存しないのである。

従って、本件建物の最低競売価額は、法定地上権を考慮することなく、建物のみの評価に基づいて決定されたものと認めるほかなく、この点において、本件建物の競売は実質上最低競売価額を定めないでなされたと同一に帰し、競売法三二条二項において準用する民事訴訟法六七二条四号、競売法二九条に違反することになるといわなければならない。そして、そうである以上、本件競売は、本件建物と右(三)の宅地とを一括して競売に付したものであるから、全体としてこれを許すべきではなく、本件抗告は理由があるというべきである。

よって、原決定を取消し、本件競落を許さないこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川島一郎 裁判官 小堀勇 小川克介)

<以下省略>

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